人的資本経営とは、従業員を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法です。
従来の人材管理とは異なり、従業員を単なるコストではなく、企業の成長を支える重要な資産と捉え、積極的に投資していくという考え方です。
人的資本経営が注目される背景
近年、人的資本経営が注目される理由は、以下の3つが挙げられます。
- 人材不足の深刻化: 少子高齢化やグローバル化により、企業は優秀な人材確保に大きな課題を抱えています。人的資本経営は、限られた人材を効率的に活用し、最大限のパフォーマンスを引き出すための有効な手段として期待されています。
- 経営環境の変化: 技術革新や市場環境の変化が激しくなる中、企業は常に新しい価値を生み出す必要があります。そのためには、従業員の創造性やイノベーションを活発化させることが重要であり、人的資本経営はそれに貢献する重要な役割を果たします。
- 投資家からの注目: 近年、投資家は企業の財務情報だけでなく、人的資本情報にも注目するようになっています。人的資本経営に取り組む企業は、企業価値向上へのコミットメントが高いと評価され、投資家からの評価も高くなります。
人的資本経営のメリット
人的資本経営には、以下のようなメリットがあります。
- 従業員エンゲージメントの向上: 従業員が自身の能力を活かして企業に貢献していると感じられる環境を作ることで、エンゲージメントが向上します。
- 生産性の向上: 従業員の能力やスキルが向上することで、業務効率が上がり、生産性が向上します。
- イノベーションの促進: 従業員の多様性や創造性を尊重し、意見交換やコラボレーションを促進することで、イノベーションが促進されます。
- 企業価値の向上: 上記のメリットにより、企業の競争力や成長力が高まり、中長期的な企業価値向上につながります。
人的資本経営の具体的な取り組み
人的資本経営の具体的な取り組みは、企業の規模や業種によって異なりますが、以下のようなものが挙げられます。
- 人材育成: 従業員のスキルアップや能力開発のための研修や教育プログラムを提供します。
- キャリア開発: 従業員のキャリアプランニングを支援し、個々の能力や目標に合ったキャリアパスを提供します。
- ダイバーシティ&インクルージョン: 性別、年齢、国籍、障がいの有無など、多様な人材を受け入れ、活躍できる環境を作ります。
- ワークライフバランス: 従業員の仕事と生活の両立を支援する制度や環境を整えます。
- 従業員エンゲージメント: 従業員満足度調査などを実施し、従業員の意見や要望を積極的に吸い上げます。
人的資本経営の課題
人的資本経営は、取り組むことで多くのメリットを得られる一方で、以下のような課題も存在します。
- 効果測定の難しさ: 人的資本経営の効果を定量的に測定するのは難しいという課題があります。
- 制度や仕組みの整備: 人的資本経営を効果的に推進するためには、人材育成や評価制度など、さまざまな制度や仕組みを整備する必要があります。
- 経営層のコミットメント: 人的資本経営は経営層の強いコミットメントがあってこそ成功します。
- 長期的な視点: 人的資本経営は短期的な成果ではなく、中長期的な視点で取り組む必要があります。
人的資本経営に関する情報
人的資本経営に関する情報は、以下のサイトなどで入手できます。
- 経済産業省: https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
- 人的資本経営コンソーシアム:
- 株式会社日本能率協会総合研究所
まとめ
人的資本経営は、企業が競争力を維持し、持続的に成長していくために不可欠な経営手法です。
人的資本経営で具体的に何をすればいいか
人的資本経営は、企業の規模や業種、経営状況によって具体的な取り組みは異なりますが、以下のような要素を網羅的に取り組むことが重要です。
1. 経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営の根幹は、経営戦略と人材戦略を密接に連動させることです。
- 経営戦略の明確化: 中長期的な経営ビジョンと具体的な戦略を策定します。
- 人材戦略の策定: 経営戦略に基づき、必要な人材像と能力を明確にします。
- 人材育成・採用・評価制度の構築: 人材戦略に基づいた人材育成・採用・評価制度を構築します。
2. 従業員のエンゲージメント向上
従業員のエンゲージメントを高めることは、人的資本経営の重要な柱です。
- 従業員とのコミュニケーション: 経営層と従業員、部門間など、活発なコミュニケーションを促進します。
- 働き方改革: 多様な働き方を受け入れ、ワークライフバランスを実現できる環境を整備します。
- 従業員満足度調査: 定期的に従業員満足度調査を実施し、課題を把握します。
- キャリア開発: 従業員のキャリアプランニングを支援し、個々の能力や目標に合ったキャリアパスを提供します。
3. 人材育成・能力開発
従業員のスキルアップや能力開発は、企業の競争力向上に不可欠です。
- OJT・OFF-JT: 職務に必要な知識やスキルを習得するための研修プログラムを提供します。
- 自己啓発支援: 資格取得支援や語学学習支援など、自己啓発を支援する制度を設けます。
- オンデマンド学習: eラーニングなど、時間や場所に縛られない学習環境を提供します。
- メンター制度: 経験豊富な社員が若手社員を指導するメンター制度を導入します。
4. ダイバーシティ&インクルージョン
多様な人材を受け入れ、活躍できる環境を作ることは、イノベーション創出に繋がります。
- 性別・年齢・国籍・障がいの有無など、多様な人材の活躍推進: 制度や環境を整備します。
- アンコンシャスバイアス研修: 無意識の偏見を認識し、解消するための研修を実施します。
- 外国人材の採用・育成: 外国人材の活躍を促進するための制度やサポート体制を整備します。
5. 人的資本情報の開示
人的資本に関する情報を積極的に開示することは、投資家や社会からの信頼を得るために重要です。
- 人的資本経営に関する方針: 人的資本経営に関する方針を明確にし、開示します。
- 人的資本指標: 従業員数、離職率、人材育成投資額など、人的資本に関する指標を開示します。
- 人的資本経営の取り組み: 人材育成、ダイバーシティ推進など、人的資本経営に関する具体的な取り組みを開示します。
6. 効果測定
人的資本経営の取り組みが企業価値向上に貢献していることを定量的に評価することが重要です。
- 人的資本指標: 従業員エンゲージメント、生産性、イノベーション創出など、人的資本経営の効果を測定するための指標を定めます。
- データ分析: 人事データや業務データなどを分析し、人的資本経営の取り組みが企業業績に与えている影響を評価します。
- 外部評価: 人的資本経営に関する外部評価制度を活用し、客観的な評価を得ます。
人的資本経営に関する情報
人的資本経営に関する情報は、以下のサイトなどで入手できます。
まとめ
人的資本経営は、単なる人事制度ではなく、経営戦略と密接に連動した経営手法です。
経営層のコミットメントと全社的な取り組みによって、従業員のエンゲージメントを高め、能力開発を促進することで、企業の競争力向上と持続的な成長を実現することができます。
人的資本経営に関する開示について
人的資本経営に関する開示は、企業の取り組みや効果を社外に透明性を持って伝えることで、投資家や顧客、従業員などステークホルダーからの信頼を得るために重要です。
開示の義務化
2023年度より、東京証券取引所プライム市場に上場する企業は、人的資本に関する情報開示が義務化されました。
開示項目
- 人材育成
- エンゲージメント
- 流動性
- ダイバーシティ
- 健康・安全
- コンプライアンス
- 労働慣行
上記7つの分野について、定性情報と定量情報の両方をバランス良く開示することが求められます。
定性情報
- 人的資本経営に関する方針
- 具体的な取り組み内容
- 経営層の関与
定量情報
- 従業員数
- 離職率
- 人材育成投資額
- 従業員満足度調査結果
開示のポイント
- 分かりやすさ: 専門用語を避け、平易な言葉で記述する
- 具体性: 数値目標や具体的な事例を用いて説明する
- 整合性: 開示情報と企業の経営戦略・人事制度との整合性を保つ
- 継続性: 定期的に情報開示を行い、最新情報を更新する
開示のメリット
- 投資家・顧客・従業員からの信頼向上
- 企業価値の向上
- 人材確保・育成の強化
- 経営の透明性向上
- リスク管理の強化
開示方法
- 有価証券報告書
- 統合報告書
- サステナビリティレポート
- 企業ホームページ
参考情報
- 経済産業省: https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html: https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
まとめ
人的資本経営に関する開示は、企業にとって重要な取り組みです。
開示のポイントを押さえ、分かりやすく、具体的な情報を提供することで、ステークホルダーからの信頼を得て、企業価値向上に繋げることができます。
参考サイト「就職したい!」と思われる会社の特徴、第1位は○○。企業研修で行なう「人的資本経営」の基本 - STUDY HACKER(スタディーハッカー)|社会人の勉強法&英語学習