日産自動車2025年3月期通期の連結業績の概要
- 売上高:12兆6,332億円(前年同期比0.4%減)
- 営業利益:698億円(前年同期比87.7%減)
- 経常利益:2,102億円(前年同期比70.1%減)
- 親会社株主に帰属する当期純損失:6,709億円(前年同期は4,266億円の黒字から大幅悪化)
- 包括利益:▲8,216億円(前年同期は1兆422億円の黒字)

主な業績のポイント
- グローバル販売台数が前年比2.8%減の334.6万台、市場占有率も0.2ポイント減の3.8%。
- 日本・中国・欧州などで販売台数減少、米国では微増。
- 営業利益急減の主因は、販売台数減、販売奨励金増加、インフレ圧力。
- 特別損失(主に減損損失とリストラクチャリング費用)が6,465億円発生し、純損失を拡大させた。
財政状態の概要
- 総資産:19兆241億円(前年同期比4.2%減)
- 純資産:5兆4,453億円(前年同期比15.8%減)
- 自己資本比率:26.1%(前年同期は30.1%)
- 1株当たり純資産:1,419.78円(前年同期は1,599.28円)
資産・負債の動向
- 流動資産は4.3%減(販売金融債権・商品在庫の減少等)。
- 固定資産も3.9%減(機械装置・運搬具の減少等)。
- 負債合計は1.5%増(短期借入金・社債の増加)。
- 純資産は利益剰余金の大幅減少で減少。
キャッシュ・フローの状況
区分 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
営業CF | 7,537億円 | 9,609億円 |
投資CF | ▲9,712億円 | ▲8,127億円 |
財務CF | 2,633億円 | ▲1,316億円 |
現金同等物期末残高 | 2兆1,975億円 | 2兆1,262億円 |
- 営業CFは収益減少で減少。
- 投資CFは設備投資増加で流出拡大。
- 財務CFは短期借入金増加でプラス転換。
セグメント別の動向
- 自動車事業:売上高・利益とも大幅減少。減損損失の大半も自動車事業で発生。
- 販売金融事業:安定的に推移するも、全体業績へのインパクトは限定的。
減損損失の詳細
- 減損損失は主に北米(2,375億円)、欧州(1,387億円)、日本(661億円)、南米(246億円)などで発生。
- 事業環境の悪化や将来計画の見直しによる資産価値の引き下げが主因。
配当・株主還元
- 2025年3月期の配当は無配(前年は年間20円)。
- 2026年3月期も現時点で配当予想は未定。
2026年3月期連結業績の見通し
- 売上高予想は12兆5,000億円(ほぼ横ばい)。
- 米国の関税政策など外部環境の不確実性から、営業利益・純利益等の業績予想は未定。
その他の注記事項
- 金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)の判決が確定。課徴金については、すでに全額納付済。
- IFRS(国際財務報告基準)適用については検討段階。
日産自動車2025年3月期通期_連結決算のポイント
- 2025年3月期は大幅な減益・最終赤字(6,709億円)となった。
- 主因は販売台数減、インセンティブ増加、インフレ、そして巨額の減損損失。
- 財務体質は現金水準などで一定の健全性を維持するものの、自己資本比率は低下。
- 配当は無配、来期も業績見通しは不透明。
- 米国の関税政策など外部環境の影響が大きく、今後も厳しい経営環境が続く見通し。
日産自動車 2025年3月期 個別経営成績まとめ
個別経営成績の概要(単体:日本基準)
項目 | 2025年3月期 | 前期(2024年3月期) | 増減率 |
売上高 | 4,081,748百万円 | 4,187,227百万円 | △2.5% |
営業利益 | 19,924百万円 | △11,843百万円 | ― |
経常利益 | 583,926百万円 | 382,385百万円 | 52.7% |
当期純利益 | 60,298百万円 | 417,843百万円 | △85.6% |
1株当たり当期純利益 | 15.84円 | 101.11円 | ― |
ポイント解説
- 売上高は前期比2.5%減の4兆817億円となり、やや減収。
- 営業利益は19億円の黒字に転換(前期は11億円の赤字)。
- 経常利益は5,839億円と大幅増加(前期比52.7%増)。これは主に配当金収入や子会社・関連会社からの収益増が寄与。
- 当期純利益は602億円と大幅減(前期は4,178億円)。減損損失や一時的な要因の影響が大きい。増減率△85.6%と大幅減益。
- 1株当たり当期純利益も大幅減少。
日産自動車2025年3月期通期_個別単体決算の総括
2025年3月期の個別決算は、売上高が微減しつつも営業利益は黒字転換し、経常利益は大きく増加しました。
しかし、特別損失などの影響で当期純利益は大幅に減少しています。
経常利益の増加は主にグループ会社からの配当金や関係会社収益の増加によるものですが、最終利益は一時的な損失計上などで圧迫されました。
日産のグループではなく、本体の利益が激減しているというのが、重要ですね。
日産の決算発表で示された収益構造の変化
1. 販売台数・ミックスの変化と利益率の低下
- 2025年3月期は米国や中国など主要市場で販売台数が減少し、特に利益率の高い車種よりも低い車種の販売比率が高まったことで、全体の収益性が悪化しました。
- 販売不振により、インセンティブ(値引きや販売促進費)の増加も利益を圧迫しました。
2. コスト構造の悪化と減損損失の計上
- 工場資産の再評価による5,000億円超の減損損失や、600億円超のリストラクチャリング費用を計上し、特別損失が大幅に拡大しました。
- インフレーションや物流費・原材料費の高騰もコスト増要因となり、収益構造を圧迫しています。
3. 固定費・変動費の削減と事業再構築
- 日産は「Re:Nissan」経営再建計画を発表し、2026年度までに固定費と変動費で合計5,000億円のコスト削減を目指しています。
- グローバル生産能力の20%削減、約2万人規模の人員削減、7工場の閉鎖など、大規模な構造改革を進めることで、販売台数が少なくても持続可能な収益体質への転換を図っています。
4. キャッシュ・フローと財務体質の変化
- 営業キャッシュ・フローは減少傾向にあり、自動車事業のフリーキャッシュ・フローも大幅なマイナスとなっています。
- 流動性確保のため、現金および現金同等物の水準を維持しつつも、収益構造の抜本的な見直しが急務となっています。
5. 今後の見通しと収益構造の転換
- 2025年度(2026年3月期)以降は、新型車投入やコスト削減策の効果で段階的な改善を見込むものの、関税や外部環境の不透明感から営業利益・純利益の見通しは未定とされています。
- 販売台数依存から、コスト構造改革と商品ポートフォリオの見直しによる「少量でも利益が出る体制」への転換が明確に打ち出されています。
収益構造の変化まとめ
日産の収益構造は、従来の「販売台数拡大による利益確保」から、「コスト削減と高収益体質への構造改革」に大きく舵を切っています。
販売不振・コスト増・減損損失の計上で赤字が拡大した一方、今後は固定費・変動費削減と生産体制のスリム化によって、販売規模が縮小しても収益を確保できる新たな収益構造への転換を目指しています。
日産「Re:Nissan」経営再建計画の詳細
計画の目的と背景
- 2024年度の厳しい業績と市場環境の不透明さを受け、販売台数依存から脱却し、収益性重視の経営体質に転換することが目的。
- 2026年度までに自動車事業の営業利益およびフリーキャッシュ・フローの黒字化を目指す。
主な施策と数値目標
- コスト削減
- 固定費・変動費あわせて5,000億円削減(2024年度実績比)。
- 変動費は2,500億円の削減を目標とし、サプライチェーンやエンジニアリングコストの見直し、グローバルR&Dリソースの合理化、プラットフォームや部品種類の大幅削減を進める。
- 人員削減と生産体制再編
- 2024~2027年度にかけて全世界で2万人の人員削減。
- 2027年度までに車両生産工場を17から10に統合(7工場閉鎖)。
- 開発体制の刷新
- 新型車の開発期間短縮(リードモデル:37カ月、後続モデル:30カ月)。
- グローバルプラットフォーム数を2024年度の13から2032年度に9、2035年度には7へと削減(46%減)、部品種類も70%削減を目指す。
- 商品・市場戦略の見直し
- 新型「スカイライン」、グローバルCセグメントSUV、インフィニティ新型SUVなどの新商品投入。
- 収益性重視で商品ラインアップや地域戦略を再定義。
- パートナーシップ強化
- ルノー、ホンダ、三菱自動車などとの協業推進。特に電動化・知能化分野での連携を強化。
計画の意義と今後の展望
- これまでの「販売台数拡大」から「利益重視・効率経営」への転換を明確に打ち出し、構造改革により持続可能な収益体質を目指す。
- 大規模なリストラと工場閉鎖は従業員や取引先に大きな影響を及ぼすが、経営再建のための抜本的な改革として実行される。
要約
「Re:Nissan」は、巨額赤字と不透明な市場環境を受けて、コスト削減・人員削減・生産体制再編・商品戦略見直し・パートナーシップ強化を柱に、2026年度までの黒字化と持続的成長を目指す現実的かつ抜本的な経営再建計画です。
日産の赤字続きのリスク評価
現状の赤字規模と背景
- 2025年3月期は過去最大規模となる7,000億~7,500億円の純損失を計上しました。
- 主因は米国など主力市場での販売不振、過剰生産能力による工場稼働率の低下(7割未満)、5,000億円超の減損損失、600億円のリストラ費用など構造改革コストの積み増しです。
赤字が続くリスクの水準
- 日産は販売台数の減少と固定費の重いコスト構造が続く限り、利益水準が大幅に悪化しやすい体質です。
- 2024年度上期だけで自動車事業のフリーキャッシュ・フローは▲4,500億円の赤字、年間で1兆円近い資金流出が続くリスクも指摘されています。
- 手元現金は1兆円強ありますが、現状の赤字ペースが続けば1~2年で資金繰りが厳しくなる可能性もあります。
倒産リスクについて
- 現時点で短期的に倒産するリスクは高くありません。キャッシュアウトを伴わない減損が多く、手元資金も一定水準を維持しています。
- ただし、販売減少とコスト高止まりが続けば、財務体質の悪化や資金調達環境の悪化を招き、中長期的には経営危機に発展するリスクも否定できません。
今後のカギ
- 「Re:Nissan」などの構造改革による固定費削減や新車投入、EV分野での成長が実現すれば、赤字からの回復も期待できます。
- 逆に、販売不振やコスト削減が進まなければ、赤字が長期化し、資金繰りや信用力の低下リスクが高まります。
日産の赤字続きのリスクは「短期的な倒産危機は低いが、現状の構造が続けば1~2年で資金繰りが急速に悪化する恐れがある」という水準です。構造改革の実効性と市場回復が今後のリスク低減のカギとなります。
トランプ関税が日産の経営に与える影響
1. 収益への直接的な打撃
- トランプ政権による自動車への25%追加関税が発動され、日産は最大で4,500億円規模の損失リスクを見込んでいます。
- これにより、2025年度(2026年3月期)の業績見通しは未定とされ、売上高以外の利益予想を出せないほど影響が大きいとされています。
2. 米国依存のリスク顕在化
- 日産はメキシコ工場から米国への輸出台数が日本メーカーで最多であり、関税の影響を最も強く受けます。
- 米国市場への依存度が高いため、関税コストの増加がそのまま経営悪化に直結します。
3. 生産・サプライチェーンへの影響
- 日産は米国現地生産の維持や生産調整で関税回避を図っていますが、メキシコや日本からの輸出分には関税がかかるため、抜本的なコスト増対策が必要です。
- 米国生産車の“逆輸入”なども検討されていますが、抜本的な解決策には至っていません。
4. 構造改革圧力の増大
- 日産は追加関税による収益悪化に対応するため、2万人規模の人員削減や7工場の閉鎖など大規模なリストラ策を進めています。
- それでもなお、関税負担を吸収しきれず、再建計画「Re:Nissan」の実効性が問われる状況です。
5. 中長期的な経営リスク
- 関税が長期化すれば、米国市場での競争力低下やシェア喪失、グローバル生産体制の再構築コスト増大など、中長期的な経営リスクが拡大します。
- 日産のみならず、関連部品メーカーやサプライチェーン全体にも深刻な影響が及ぶ見通しです。
トランプ関税は日産の経営に極めて大きなマイナス影響を与えており、最大4,500億円規模の損失リスク、米国依存の収益構造の脆弱性、リストラ圧力の増大など、短期・中長期の両面で経営危機を深刻化させています。
日産がトランプ関税に対処するための具体的な対策
1. 米国内での生産強化と減産計画の見直し
- 日産は、米国での25%追加関税発動を受け、米国工場での生産を強化する方針に転換しました。具体的には、米テネシー州スマーナ工場などで計画していた減産を撤回し、生産体制を維持しています。
- 一方、メキシコや日本から米国向けに輸出していた車両については、輸出台数を縮小し、米国内生産へのシフトを進めています。
2. 生産拠点の再編とリストラ
- 2027年度までに世界の工場を17カ所から10カ所へ統合し、国内外で7工場を閉鎖する大規模な生産拠点再編を進めています。これに伴い、2万人規模の人員削減も実施予定です。
- 固定費・変動費の大幅な削減を進め、関税コスト増への耐性を高める構造改革を急いでいます。
3. 他社との協業によるコスト分散
- 三菱自動車と米国工場でSUVの共同生産を検討し、現地生産の効率化とコスト分散を図っています。
4. 販売・在庫戦略の見直し
- 関税発動前に米国市場向けの在庫を積み増し、当面の販売価格維持を目指すなど、短期的な価格転嫁を回避する戦略も取られています。
5. 継続的な経営合理化
- 既存の経営合理化策(世界で9,000人規模の人員削減など)を、関税政策に合わせて修正・強化しています。
日産はトランプ関税によるコスト増に対応するため、米国内生産の強化、輸出縮小、工場統廃合と人員削減、他社との現地協業、在庫調整など多面的な対策を実施しています。
これにより、関税負担の軽減と収益体質の強化を目指しています。