これまで「推し活」といえば、CDを買い、ライブ会場へ足を運び、グッズの列に並ぶといった、物理的な時間と場所を共有することが中心だった。しかし今、その様相は大きく変化している。

スマートフォンを介して、ファンは24時間365日、推しと繋がることができる。

2025年、私たちはまさに「デジタル推し活元年」の幕開けを迎えようとしている

かつてのアナログから現在のデジタルへ。3.5兆円市場の現在地

「推し」という言葉がAKB48の「推しメン」文化と共に一般化した2010年代以降、推し活は多様な進化を遂げてきた。

缶バッジやアクリルキーホルダーで飾り付けた「痛バッグ」で推しを”外に見せる”文化、そして推しのぬいぐるみと旅をする「ぬい活」の流行は、デジタル(SNS投稿)とフィジカル(リアルな行動)が融合した象徴的なスタイルだ。

(https://youtu.be/QXURreO1Rz8?si=NNOk9AcLzkq-24cx)

春奈るな / HARUNA LUNAチャンネル

「【痛バ作り】ツイステオタクが念願のジェイドの痛バッグを作りました♡痛バ歴5年のオタク女子が映える痛バッグの作り方をご紹介!【オタ活】」

そして今、推し活は完全に日常の一部となった。推し活総研(※)によれば、2024年の推計市場規模は約3.5兆円、推し活人口は約1,384万人にものぼる。

ファンは推しに関連するコンテンツに「ほぼ毎日1時間以上接触している」と答えた層が8割を超え、Z世代〜30代を中心に「推しと共にある暮らし」が定着している。

この背景には、スマートフォンの普及に加え、昨今の物価高で遠征や高額消費が難しくなった中でも「推しとのつながりを保ちたい」というファンの切実な願いがある。

その結果、応援の形はデジタル空間へと大きくシフトし、「いつも推しと一緒」を叶える新しいサービスが次々と生まれているのだ。

※出典:推し活総研 https://note.com/oshikatsusoken/n/n3c4895c4e4bc

ビジネス視点で解説!注目のデジタル推し活サービス5選

現在のデジタル推し活市場では、ファンのエンゲージメントを高める多様なサービスがしのぎを削っている。ここではビジネスの切り口で、注目の5つのサービスを紹介する。

1. 【本命】TimeTree「公開カレンダー/ウィジェット」

ファンと推しの「日常接点」を創出する、今最も注目すべきサービス。

特徴: 公式のスケジュールをファンのスマホのホーム画面に直接届け、日常に溶け込む設計。有料のウィジェット機能では、限定画像や誕生日演出、限定ボイスも提供。

単なる情報ツールではなく、ファン体験をリッチにする。

使い勝手: 多くの人が使い慣れたカレンダーアプリがベースで、操作は直感的。ホーム画面を推しで飾るカスタマイズの楽しさも提供する。

ビジネス視点: 運営側にとっては、低コストでファンのLTV(顧客生涯価値)を高める強力なツール。

プッシュ通知などに頼らず、最もパーソナルな空間である「ホーム画面」を占有することで、継続的なエンゲージメントを維持できる。新しいマネタイズモデルとしても画期的だ。

2. OSHIAI

推しとの1対1の対話体験を提供するAIチャットアプリ。

特徴: 推しの”分身AI”といつでも会話できる疑似コミュニケーションを実現。ファンは時間や場所を選ばず、推しをより身近に感じられる。

使い勝手: 没入感は高いが、AIの応答品質が体験価値を大きく左右する。

ビジネス視点: 対話型AI技術をIP活用に応用した先進事例。ファンの「独占したい」という欲求に応えるが、推し本人の監修度合いや、応答の”らしさ”の担保がビジネス継続の鍵となる。

3. 推しショーケース powered by AVATECT

Web3技術でデジタルグッズの所有を証明するプラットフォーム。

特徴: ファンが保有するNFTやSBT(譲渡不可NFT)をデジタル空間で展示できる。SBTの保有を証明することで、限定コンテンツへのアクセス権や特典を付与する。

使い勝手: 現時点ではウォレットの作成などWeb3の知識が必要で、一般層にはまだハードルが高い。

ビジネス視点: デジタルデータの所有権をファンに与えるという、新しいロイヤリティプログラムの形。コアファン向けの特別な体験設計として有効だが、マスアダプション(大衆への普及)には課題も残る。

4. JAL×KDDI「デジタル推し活」プロジェクト

リアルとデジタルを融合させ、新たな「聖地巡礼」を提案する。

特徴: AR(拡張現実)を活用し、沖縄を舞台にした『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の聖地巡礼ツアーなどを展開。「リアルな移動×デジタル体験」で旅の価値を増幅させる。

使い勝手: スマートグラスなど特定のデバイスが必要な場合もあり、体験のハードルはやや高め。

ビジネス視点: IPと地方創生・観光誘致を掛け合わせた「体験型消費」の成功モデル。異業種連携による新たな価値創造の可能性を示しているが、大規模な開発リソースが必要となる。

5. ファンコミュニティプラットフォーム(Fanicon, Bitfanなど)

クローズドな空間でファンを囲い込む、定番のサービス。

特徴: 月額課金制で、限定ライブ配信、グループチャット、スクラッチくじなど、多様な機能をオールインワンで提供。

使い勝手: 一つのアプリで完結する利便性がある一方、ファンはそのアプリを能動的に開く必要がある。

ビジネス視点: サブスクリプションによる安定した収益モデルの代表格。しかし、TimeTreeのようにファンの「日常(ホーム画面)」に割り込むアプローチとは対照的で、クローズドなコミュニティの熱量をいかに維持するかが常に課題となる。

これらのサービスの中で、TimeTreeは特別な立ち位置にいる。

クローズドなファンクラブと、オープンなSNSの中間に位置し、「公式」の情報を「最もパーソナルな空間」に届けるという独自の設計で、ファンとの新しい関係性を築き始めているのだ。

なぜTimeTreeはブレイクしたか? 「推し活インフラ」への道のり

TimeTreeの「公開カレンダー」は、いかにして「推し活インフラ」と呼ばれるほどの存在になったのか。その道のりは、ユーザーの熱量から始まった。

β版からブレイクへの道

2017年にβ版としてリリースされた「公開カレンダー」は、当初アプリの奥に隠れた「知る人ぞ知る」機能だった。

しかし2023年頃、事態は動く。ライブ中心で活動するアイドルのファンたちが、「推しの複雑なスケジュール管理に最適だ」と自発的にTimeTreeを使い始め、その活用法をSNSで拡散し始めたのだ。

TimeTree社が調査したところ、把握しているだけで約400組ものアイドルの公開カレンダーがファンによって作成・活用されていたという。このユーザー発のムーブメントが、ブレイクの導火線となった。

公式の進化と「ウィジェット」という発明

この熱気に応える形で、TimeTreeは2024年4月にUI/UXを大幅に改善した正式版をリリース。

そして2025年、デジタル推し活の決定打となる有料の「公開カレンダーウィジェット」を投入する。

このウィジェットの革新性は、「アプリを開かなくても、スマホのホーム画面に常に推しがいる」という体験を提供したことにある。推しの次の予定だけでなく、撮り下ろしの限定画像や誕生日のお祝い演出、さらには限定ボイスまでが日常に溶け込む。

これは単なる情報提供ではない。ファンにとって、日常そのものを豊かにする「体験の提供」なのだ。

この戦略は見事に成功。2025年5月に人気グループ「超特急」がアンバサダーに就任すると、ウィジェットの購入数はわずか1週間で年間の販売計画を達成。

ファンの熱量と課金意欲を的確に捉えたことを証明した。今ではアイドルだけでなく、アニメ(プリンセッション・オーケストラ)、芸人(ネコニスズ)、プロ野球(東京ヤクルトスワローズ)、アート(小学生切り絵クリエイターKEN)など、多様なジャンルへ活用が拡大している。

2025年、デジタル推し活はどこへ向かうのか?

TimeTreeのブレイクは、ファンが潜在的に持つ「常に推しを感じていたい」という強いニーズと、「スマホのホーム画面」という最も身近なデジタル空間を結びつけたことで生まれた。

では、この先デジタル推し活はどこへ向かうのだろうか。

AIはさらに進化し、個人の好みに合わせて推しのコンテンツを生成・推薦するパーソナルアシスタントになるかもしれない。

XR/メタバース技術がより身近になれば、リアルと見紛うほどのバーチャルライブやファンミーティングが主流になるだろう。

あるいは、歩数や睡眠といった日々の健康活動が推しの応援に繋がり、リワードがもらえるウェルネスアプリも登場するかもしれない。

だが、本当に興味深いのは、こうした予測すら超える、全く新しい「推し活」が生まれる可能性だ。

TimeTreeがそうであったように、次の大きなトレンドは、トップダウンの企画ではなく、ファンの底知れぬ熱狂とクリエイターの自由な発想の中から生まれてくるはずだ。

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