米不足が騒がれ、お米の値段も上がりました。ここに来て米農家の減少と高齢化がとても深刻な状況となっています。
このままだと、米の自給率が低下して、米まで輸入に頼る生活になりかねません。米農家の減少に有効な対策はあるのでしょうか。
米作農業の倒産廃業が増加していて米不足が懸念される
株式会社帝国データバンクは、「米作農業」の倒産・休廃業解散における発生状況について調査・分析を行った。
<調査結果(要旨)>
- コメ高値でも苦境 「コメ農家」の倒産・廃業、過去最多
- 前年比2割の急増 赤字が常態化、生産者の高齢化も影響
集計期間:2024年12月31日まで
集計対象:負債1000万円以上法的整理による倒産
調査機関:株式会社帝国データバンク
全国的なコメ価格高騰が続くなか、収益力の悪化や高齢化を理由に米作農家の倒産や廃業が相次いでいる。
2024年に発生した米作農業(コメ農家)の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は6件、休廃業・解散(廃業)が36件発生し、計42件が生産現場から消滅した。23年通年の件数(35件)から2割の増加率を記録し、年間の最多件数を更新した。
米価格の上昇と生産コストの上昇
コメ価格をめぐっては、これまで膨らんできた生産資材などのコスト上昇分を価格転嫁する動きが進んでいる。
農林水産省の調査によると、2024年産玄米60kgあたりの相対取引価格平均(出回り~11月まで)は2万3000円を超え、前年産比8千円・50%超の増加となるなど、コメ価格の引き上げに追い風が吹いている。
ただ、23年産まで1万円台での推移が続いたなかで、多くを輸入に頼る肥料や農業薬剤など生産資材のコスト高により、手元に利益が残りにくい経営環境が続いてきた。
米作農業の業績をみると、23年度では最終損益で「赤字」が25.8%を占め、利益の減少を示す「減益」(29.4%)を合わせた「業績悪化」は55.2%と全体の半数を超えた。
米農家の後継者問題
利益が残らないことから翌年の苗床やトラクターなどの機材調達費用が捻出できないといった事情に加え、就農者の高齢化や離農が進むなかで次世代の担い手が見つからないといった深刻な後継者不足問題も、コメ農家の廃業を後押しする主な要因となっている。
実際に、廃業時の代表者年齢が判明したコメ農家のうち、2024年は「70代」以上が6割超、「60代」を含めると約8割を占めた。
足元では急激なコメ価格の高騰で消費者の「コメ離れ」を懸念する声もある。
コメ農家の経営と、物価高に悩む消費者の双方を意識した、持続可能な米作農業の構築が急がれる。
ビジネスeye
米農家の減少に歯止めをかけるための対策がいくつか存在します。
農地集約・大規模化
個別の小規模な農場を集約し、大規模化することで作業効率の向上やコスト削減が期待できます。
これにより、以下のメリットが得られます。
- 作業効率の向上
- 大型機械の導入によるコスト削減
- スケールメリットによる市場競争力の強化
スマート農業・農業DXの導入
AIやIoTを活用したスマート農業や農業DXの推進により、労働力不足を補うとともに、新規就農者への魅力を提供します。
高精度なデータに基づく最適な作物生産が可能となります。
新規就農者の育成・支援
全農おおいた方式のような新規就農者の育成・就農支援システムの導入により、就農家の確保と育成に取り組むことができます。
多様な取り組みの推進
以下のような取り組みを通じて、米農家の減少に歯止めをかけることが可能です。
- ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入
- 中山間地域等直接支払制度や多面的機能支払交付金の活用
- 産地間人材リレーによる技術交流や人材共有
- 輸出や有機農業など、成長が期待される分野での新たな付加価値の創出
- 水田の大区画化等による生産基盤の強化
これらの対策を総合的に実施することで、米農家の減少に歯止めをかけ、持続可能な農業経営の実現を目指すことができます。
農業の大規模化の成功事例
農地集約・大規模化の成功事例がいくつか存在します。
鳥取県西伯郡大山町宮内地区の事例
この中山間地域では、以下のような成果が得られました。
- 農地集積率が1年で9%から56%に上昇
- 基盤整備により水田の区画整理を進め、高収益作物への転換を促進
- 未作付け地の問題が解消
- 地域外の農業法人を誘致し、7.5haの農業団地を形成
兵庫県たつの市揖保南地区の事例
この地区では、以下のような取り組みが行われました。
- 広域集落営農法人「(株)ファーム揖保の里」を設立
- 農地中間管理事業を活用して農地の集積・集約化を実施
神奈川県三浦市の事例
三浦市では、耕作放棄地の活用により大規模経営に成功しました。
- 耕作放棄地を畑地に造成・整備
- 高収益作物の導入
- 農家1戸当たりの販売額を大幅に増加
これらの事例から、農地集約・大規模化は労働力不足の解消や生産性向上に効果的であることがわかります。
機械化の導入が進み、労働時間の短縮や生産性の向上が実現されています。
また、大規模化によって農業経営の安定性が向上し、若い世代の参入を促進する環境が整備されています。
米農家に対する補助金
米農家に対する補助金制度には、いくつかの重要な施策があります。
水田活用の直接支払交付金
この制度は、米の需給調整を図りつつ、戦略作物の生産を支援します。
- 飼料用米:収量に応じて10アールあたり55,000円から105,000円の補助金が支給されます。
- WCS用稲:10アールあたり80,000円の補助金。
- 加工用米:10アールあたり20,000円の補助金。
ただし、飼料用米(主食用品種)については、令和6年産から段階的に支援水準が引き下げられる予定です。
産地交付金
地域の特性に応じた作物生産の推進のために設けられた制度です。
- 新市場開拓用米の複数年契約:10アールあたり10,000円。
- 飼料用米等の生産性向上の取り組み:取り組み内容に応じて10アールあたり1,800円から2,400円程度。
水田リノベーション事業
需要拡大が期待される作物の生産を支援する制度です。
- 新市場開拓用米:10アールあたり40,000円。
- 加工用米:10アールあたり30,000円。
- 米粉用米(パン・めん用の専用品種):10アールあたり90,000円。
地域独自の支援制度
地方自治体によっては、独自の支援制度を設けている場合があります。
例えば、坂戸市では「米穀次期作支援臨時補助金」として、令和6年産米に使用する種もみ・肥料の購入代金の半額(上限100万円)を補助しています。
これらの補助金制度は、米農家の経営安定と生産意欲の向上を目的としています。
ただし、制度の詳細や補助金額は年度ごとに変更される可能性があるため、最新の情報を確認することが重要です。
他の農作物の補助金と米の補助金の比較
米農家に対する補助金は、他の作物と比較して特に優遇されているとは言えません。
むしろ、近年の政策動向は米の生産調整と他作物への転換を促す方向にあります。
米農家向け補助金の特徴
1. 水田活用の直接支払交付金
- 飼料用米や加工用米など、主食用米以外の作物への転換を支援
- 飼料用米の補助金は段階的に引き下げられる予定
2. 産地交付金
- 地域の特性に応じた作物生産を推進
- 新市場開拓用米や飼料用米等の生産性向上の取り組みを支援
3. 水田リノベーション事業
- 需要拡大が期待される作物の生産を支援
- 新市場開拓用米や加工用米、米粉用米などが対象
他の農業分野との比較
1. 新規就農者支援
- 就農準備金や経営開始資金など、作物を問わず新規就農者全般を対象とした支援が充実
2. 設備投資支援
- 強い農業・担い手づくり総合支援交付金や農地耕作条件改善事業など、幅広い農業分野で活用可能
3. 環境保全型農業支援
- 環境保全型農業直接支払交付金など、持続可能な農業実践を支援する制度が存在
これらの補助金制度を総合的に見ると、米農家に特化した優遇措置は限定的であり、むしろ米以外の作物への転換や多様な農業経営の推進が政策の主眼となっていることがわかります。