2025年7月15日発表の2025年5月期(2024年6月1日~2025年5月31日)連結決算の内容を、【業績】【財務】【キャッシュフロー】【セグメント】【配当・見通し】の観点で詳しく解説します。
パソナグループの2025年5月期決算は、減収減益で着地しています。
当期純損失が、8,658百万円となっています。対前年同期比で大幅な赤字となりました。
期中に子会社の売却を行い、稼ぎ頭を失っている状態が続いています。ここから収益の柱を構築するのには、かなりの時間と資金の注入が必要となります。
どのように、収益を改善し利益を確保する事業計画か合わせて見てみたいと思います。
パソナグループの対前年比で見る決算数値

1. 連結経営成績の詳細
指標 | 2024年5月期 | 2025年5月期 | 増減率 |
売上高 | 356,733百万円 | 309,240百万円 | △13.3% |
営業利益 | 6,794百万円 | △1,237百万円 | ― |
経常利益 | 7,152百万円 | △460百万円 | ― |
親会社株主帰属当期純利益 | 95,891百万円 | △8,658百万円 | ― |
一株当たり純利益 | 2,447.56円 | △221.80円 | ― |
自己資本比率 | 49.3% | 50.9% | +1.6pt |
総資産 | 301,090百万円 | 265,038百万円 | △12.0% |
純資産 | 154,677百万円 | 141,134百万円 | △8.8% |
現金同等物 | 137,047百万円 | 78,664百万円 | △58,382百万円 |
ポイント
- 大型受託案件のピークアウトやアウトソーシング子会社売却により、売上・利益とも大幅減。
- 特別損失には万博出展関連費用4,821百万円を計上。
- 業績の急減にも関わらず自己資本比率は50.9%と堅調に維持。
2. セグメント別業績(2025年5月期)
セグメント | 売上高(百万円) | 前期比 | 営業利益(百万円) | 前期比 |
HRソリューション合計 | 286,552 | △3.7% | 14,808 | △5.2% |
BPOソリューション | 137,236 | △7.0% | 9,759 | △15.7% |
エキスパートソリューション | 134,807 | △1.7% | ― | ― |
キャリアソリューション | 14,507 | +11.1% | 5,048 | +24.9% |
グローバルソリューション | 11,407 | +3.5% | 401 | +48.3% |
ライフソリューション | 8,623 | +10.7% | △26 | ― |
地方創生・観光ソリューション | 7,083 | +7.2% | △1,900 | ― |
全社・消去 | △4,425 | ― | △14,519 | ― |
補足解説
- BPO・人材派遣は減収減益だが、キャリア紹介・グローバル事業は増収増益で好調。
- 地方創生・観光は赤字幅が縮小しつつも赤字継続。
3. キャッシュ・フロー詳細
区分 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
営業CF | 7,397百万円 | 4,327百万円 |
投資CF | 94,252百万円 | △47,600百万円 |
財務CF | △12,879百万円 | △15,055百万円 |
現金同等物増減 | 89,068百万円 | △58,384百万円 |
- 前期に子会社売却で投資CF大幅増加→今期は定期預金・有価証券取得等で投資によるキャッシュ減少。
- 現金同等物は年末時点で半減。
4. 配当方針・実績
決算期 | 配当(1株当たり) | 配当方針/特別配当 |
2025年5月期 | 75円(普通15円+特別60円) | 子会社売却に伴う特別配当60円含めた累進配当を5期(2024~2028年)継続 |
2026年5月期(予) | 75円(普通15円+特別60円) | 業績連動ではなく安定配当維持 |
5. 今後の見通し(2026年5月期)
指標 | 2025年5月期実績 | 2026年5月期予想 | 増減率 |
売上高 | 309,240百万円 | 330,000百万円 | +6.7% |
営業利益 | △1,237百万円 | 2,500百万円 | - |
経常利益 | △460百万円 | 2,800百万円 | - |
親会社株主帰属当期純利益 | △8,658百万円 | 500百万円 | - |
- 2026年5月期はAI・デジタル投資を加速し、コスト構造見直しや収益力の回復を計画。
- セグメントごとに、エキスパートソリューション(人材派遣)やグローバル、地方創生・観光などが高成長を見込む一方、BPOはほぼ横ばいの見通し。
6. 主な財務指標
- 自己資本比率:50.9%
- 一株当たり純資産:3,517円
- 期末株式数:40,190,300株(普通株式、自己株式含む)
- 主要な子会社:株式会社パソナ、ビーウィズ株式会社など
7. 特別損失について
万博関連費用を特別損失として4,821百万円を計上。閉会後の万博パビリオン移設・運営関連費用、臨時的なコストが中心。
総括
2025年5月期は前期比で大幅減収減益・赤字転落となったものの、自己資本比率や配当水準を維持。
2026年5月期は、AI投資を含む成長戦略による増収増益へ反転を目指す計画。安定配当維持の方針、主要セグメントの収益構造改善が注目される決算内容です。
大幅赤字からどう業績を回復させていくのか、これからパソナグループが取組む施策がとても重要です。
パソナグループ 業績回復戦略のポイント
2025年5月期に大幅減収・赤字転落したパソナグループですが、2026年以降の業績回復へ向け、複数の重点施策を打ち出しています。経営戦略・成長シナリオの主な内容は以下の通りです。
1. 重点戦略と財務目標
- 2030年5月期までに売上高4,000億円、経常利益率5%、ROE8%以上、PBR1倍超の財務目標を設定
- 2026年5月期から成長投資を加速し、収益構造の改革を図る
2. 事業戦略:3つの軸
① BPOソリューションの高付加価値化
- X-TECH BPO(AI・デジタル活用による高付加価値化/専門分野拡大)
- AI・DXへの投資、基幹システム刷新による効率化
- M&Aや業務提携による新領域拡大
- BPO売上高2030年目標1,700億円、売上総利益率24%めざす
② 地方創生・観光ソリューションの深化
- ユニークな施設・サービス、地域産業連携による観光・地方創生事業の拡大
- 淡路島事業やインバウンド・法人顧客強化、体験価値最大化
- 2030年目標売上高200億円、営業利益20億円めざす
- データ活用/DX導入による経営資源・オペレーション最適化
③ 新産業の創造
- Well-being(健康・福祉)分野、予防医療、食・農業、グローバル人材育成、新規事業創出
- 淡路島のウェルネスリゾートなど新事業モデル展開
- 国内外ベンチャー連携や大阪・関西万博でのグローバルネットワーク構築
3. 人的資本・DX投資
- DX人材育成・組織基盤強化
- 2030年までにDX人財2万人育成
- 業務DX化で社内外の効率化・サービス品質向上
- 人的資本戦略
- 高度な専門人財・DX人財の採用・育成を通じた収益力強化
- キャリアウェルビーイング指標の向上
4. コストコントロール・資本政策
- コスト適正化(2030年5月期、全社コスト売上比率3.5%以下)
- 管理体制強化・DX推進によるグループコスト削減
- 新規事業の早期事業化
- キャッシュアロケーション
- 子会社売却益などを新規事業投資・M&A、成長投資へシフト
5.株主還元・ESG強化
- 安定配当・自己株取得
- 2024~2028年は特別配当60円+普通配当15円=75円を下限に累進配当
- ESG経営/コーポレートガバナンス・リスクマネジメントも強化
【業績回復と持続的成長への回復シナリオ】
パソナグループは「BPO高付加価値化」「地方創生・観光強化」「新産業創造」の三本柱とDX投資による生産性向上を中心に業績回復策を実行します。
資本効率化やコスト削減、株主還元・サステナ戦略も合わせて、2026年より増収・増益の軌道復帰と持続的成長を目指しています。

ビジネスeye
パソナグループの黒字化には、既存事業の収益性向上と新たな成長領域への投資のバランスが重要です。
特に、AIやDXを活用した高付加価値サービスへの転換、地方創生事業の収益改善、そして全社的なコスト最適化が成功の鍵となります。
2026年5月期の黒字転換は、これらの戦略が実を結ぶ重要な節目となるでしょう。
パソナグループの黒字化を阻む主要リスク要因
現在の状況分析と業界動向を踏まえ、パソナの黒字化を阻む可能性のある主要なリスク要因をご説明します。
構造的な事業リスク
地方創生・観光事業の継続的赤字
- 現状: 19億円の営業損失が継続中
- リスク: 万博効果が期待値を下回った場合、2030年目標(営業利益20億円)の達成が困難
- 万博関連の特別損失: 既に48億円の特別損失を計上 神戸新聞
BPO事業の大型案件依存リスク
- 課題: 大型受託案件のピークアウトによる減収継続
- 競争激化: データエントリー等の単純業務はデジタル化で縮小、価格競争が激化
- 利益率圧迫: 粗利率改善が追いつかない可能性
市場環境・競争リスク
人材派遣業界の構造的課題
- 利益率の低さ: 派遣料金の約30%が手数料だが、実際の営業利益率は極めて小さい
- 人材獲得競争の激化: 高スキル人材の獲得競争が激化、人件費上昇圧力
- 代替技術のリスク: AIやロボティクスによる人材派遣需要の減少
価格競争の激化
- BPO市場: 中小企業がBPO事業から撤退する事例が増加、価格競争による利益圧迫
- 差別化の困難: 質の高いサービス提供による差別化戦略の実行が困難
財務・投資リスク
先行投資の回収リスク
- 基幹システム投資: 100億円の基幹システム刷新投資の効果が期待値を下回るリスク
- DX人材育成: 3,000人のDX人材育成目標が未達となるリスク
- ROI未達: 投資対効果が計画を下回る可能性
コスト構造の硬直性
- 人件費上昇: 継続的な人件費上昇により収益性が悪化
- 固定費負担: 地方創生事業の固定費負担が重荷となる可能性
経済環境の悪化
- 景気後退: 企業の採用抑制による人材派遣需要の減少
- インバウンド減少: 地政学的リスクや円高による観光需要の減少
- 万博効果の限定性: 2025年万博後の反動減のリスク
規制・制度変更リスク
- 労働法制の変更: 派遣労働に関する規制強化による事業制約
- 税制変更: 法人税率上昇等による収益への影響
経営陣の交代リスク
- 創業者退任: 南部代表の退任による経営方針の変更リスク
- 新体制での執行力: 新経営陣での戦略実行能力の不確実性
人材流出リスク
- エキスパート人材の確保: 高度専門人材20%目標の未達
- 組織のモチベーション: 継続的な赤字による従業員のモチベーション低下
時間軸の問題
- 2026年黒字化の前提条件: 全ての戦略が順調に進行することが前提
- 回復の遅れ: 地方創生事業の黒字化が2030年まで先送りされるリスク
- キャッシュフロー: 先行投資期間の資金繰りへの影響
総合的なリスク評価
最も懸念すべきは、「複数のリスクが同時に顕在化する複合リスク」です。
地方創生事業の赤字継続 + BPO事業の価格競争激化
経済環境悪化 + 人材獲得コスト上昇
先行投資の効果遅延 + 競合他社の追い上げ
これらの組み合わせが発生した場合、2026年の黒字転換目標の達成が困難になる可能性が高くなります。
パソナの黒字化成功には、これらのリスク要因に対する早期の対策実行と柔軟な戦略修正能力が不可欠と考えられます。