
ITエンジニアの新しい働き方を提案する株式会社PE-BANKは、2025年6月14日に、全国のITエンジニア向けオンラインイベント「ProTechOne 2025」をオンラインにて開催しました。
コロナ禍を経て2022年からすべてのITエンジニア・ITフリーランスを対象に、最新の業界トレンドや実務で役立つノウハウ、キャリアプランなどのコンテンツを提供するイベントへとリニューアル。

2025年は「ミライの自分を育てるベストプラクティス」を開催テーマに、急速に変化するIT環境のなかで自己成長を目指すエンジニアがどのように学び、共創の力を活かすのかに関するセッションが行われました。
今回はIT系YouTuber3名によるディスカッションの模様をお伝えします。
「フリーランス×正社員×起業 自由か、安定か?キャリア選択の未来を探る」をテーマに登壇したのは、YouTubeチャンネル「セイト先生のWeb・ITエンジニア転職ラボ」を運営するセイト氏、受託事業を手がける株式会社エンジーニアスを経営する傍ら、YouTubeチャンネル「たんたセミナー」で情報発信するたんた氏、「シリコンバレーエンジニア酒井潤チャンネル」を運営する酒井氏。
4つのトピックをもとに、ITエンジニアの新しい働き方やキャリアの道筋を探っていきました。
トークテーマ①|働き方の自由 VS 安定性

事前に行った参加者へのアンケートでは、働き方の自由と安定がどちらも重要だと答えた人が67%を占めていました。
その結果について、たんた氏は「終身雇用が当たり前だった昔に比べ、時代とともに『自由』と『安定』が必ずしも相反するものではなくなってきている」とコメントしました。
「かつての日本では年功序列や終身雇用が当たり前で、転職も今ほど一般的ではありませんでした。だからこそ、働き方の自由と安定は対立するものだと考えられてきたわけです。
それが現在では、自由に働ける人ほど、結果的に安定した状態を築ける時代になっているのではと思います。自分も独立して働いている立場で自由を選びながらも、それが自分なりの安定につながっているという感覚が強いなと感じています」(たんた氏)
たんた氏が示した「自由な人こそ安定を取れるという一挙両得の時代」は非常にしさ深い見立てだったの対し、酒井氏は「アメリカでは公務員のような学校の先生でさえ解雇されることがあり、どれだけ大手の企業に勤めていても、“安定”という選択肢自体が存在しない」と語りました。
「私自身も、最初にアメリカで働いていた会社が倒産して、翌日から仕事が突然なくなったり、前職のSplunkがシスコシステムズによる買収のタイミングで所属先の部署全員が解雇されたりと、キャリアの中で2度の解雇を経験しました。
こうした出来事で実感したのは、『アメリカでは「人生の中で一度は解雇を経験するのが当たり前』という空気があるということです。
そのため、安定を前提にキャリアを考えるのではなく、自由に動ける力を持つことの方が結果的に生き残る道だと思いますし、アメリカや中国ではすでにそういった働き方が主流です。
日本もいずれ、そうした方向にシフトしていくのではないかと感じています」(酒井氏)
日本の場合、正社員として働くことと、フリーランスや起業といった独立の道を選ぶことの間には大きなギャップがあります。
セイト氏は「アメリカの場合、日本のように正社員と独立の間にある心理的なハードルやメンタル的な違いもあるのか」と酒井氏に問いを投げかけました。
酒井氏は「私自身も、正社員という立場でありながら、解雇されるというリスクの備えとして副業を行っている。
そういう意味では、日本のフリーランスとあまり変わらない感覚で働いている」とメンタル面について説明しました。
また、アメリカでは日本のように企業が副業を禁止する流れはない一方で、「結果を出すか・出さないかが問われる」と酒井氏は述べました。
「アメリカは非常にシンプルで、結果を出せば評価されて給与が上がるし、逆に結果が出なければ解雇される。それが制度として整っているので、副業をしているかどうかは、基本的に関係ありません。むしろ、本業に集中して成果を上げることで収入を伸ばしている人もたくさんいます。GoogleやXなどの有名企業では、副業せずに残業や追加業務に取り組むことで、年収を大きく増やしているケースもあります。私の前職でも、入社当初は年収1000万円ほどでしたが、半年間集中して1日15〜16時間働いた結果、年収が2000万円まで跳ね上がりました」
トークテーマ②|キャリアのリスクとリターン

次のトピックはキャリアのリスクとリターン。事前のアンケートでは、48%が現在の働き方はリスクが高いと感じていないと答えていました。
アメリカでは雇い主と働き手の関係が、需要と供給のバランスで成り立っており、条件が合致すれば雇用が成立する一方で、不満があれば自然と転職していくフレキシブルな市場になっているそうです。
だからこそ、「リスクとリターンのバランスが非常に取れている」と酒井氏は話しました。
「Googleのような大手企業では、新卒でも年収が約2500万円、マネージャーで5000万円、ディレクターで7000万円、さらに上になると年収1億円に届くケースもあります。
こういった報酬は確かに大きなリターンですが、その分、パフォーマンスが出なければ解雇されるリスクも常にあるわけです。
でも、リスクとリターンが釣り合っているからこそ納得感があるし、そこに働きがいを見出せる環境になっています。
対して日本の場合、優秀な人が成果を上げても給与テーブルによって横並びにされてしまったり、企業が社員に対して利益を社員に十分に還元していなかったりすることも多い印象です。
結果として、社員が『搾取されている』と感じる状況も起きやすいのではないでしょうか」(酒井氏)
たんた氏は「独立や起業といったハイリスク・ハイリターン型のスタイルが万人にとって良いとは限らないからこそ、難しいテーマだ」と前置きしつつ、自身の見解を次のように示しました。
「やはり多くの人にとって、一定の安定や組織によるセーフティネットの中で働くことに安心感を持つのは自然なことですし、リスクに対する許容度というのは人それぞれです。
そのため、自分がどこまでのリスクを取れるのか、どのあたりが自分にとって心地よいバランスなのかをしっかり理解しておくことが、長い目で見てキャリアを安定させる上でも非常に大事だと考えています」(たんた氏)

セイト氏は「会社員として雇われている場合には、会社のルールや慣習に従わなければならず、独立すれば経済的な不安や自分で全ての意思決定を下すプレッシャーがのしかかる。
結局のところ、どんな種類のストレスなら耐えられるのか、どちらの働き方がより自然体で過ごせるのかを理解するのがすごく大事」だと自分の考えを共有しました。
また、最近はAIの台頭によって、アメリカのIT業界では仕事が減っているという報道も目にします。こうした現状をセイト氏が酒井氏に質問したところ、「エンジニアの需要はまだまだある」と答えました。
「一時的に解雇が増えた背景としては、イーロン・マスク氏がXの社員を大幅にレイオフした時期があり、その時流に合わせて大手企業も一斉に人員整理に動いたからです。
それに加えて、最近はChatGPTなどの生成AIの影響で仕事がなくなっているといった話題もよく聞きますよね。
実際、アメリカの企業は新しいテクノロジーに対しての反応が非常に早く、資金も人材もそこに集中させたいという流れがあります。そのため、AIと直接関係のない部門や部署は、会社として今後の収益につながらないと判断されやすく、レイオフされるという決断が下されることが多いんです」
オンラインで参加した視聴者からは「日本の終身雇用の是非について」の質問が寄せられました。たんた氏は「良い側面、悪い側面の両方があり、パフォーマンスを出している若手のモチベーションを下げてしまう要因になる一方で、一定の雇用が守られてステップを踏んでいけば収入が上がる仕組みによって、日本の治安が保たれている部分も強くある」と回答しました。
酒井氏は「日本は良くも悪くも経済成長があまりないぶん、貧富の差も小さく抑えられている。アメリカだと、いつでも解雇が可能なため、優秀な人と職を失ってしまう人の格差がかなり広がってしまう。こうしたなかでも、今の日本の制度に物足りなさを感じている人は、思い切って海外に出る選択肢を取るのもいいのでは」とコメントしました。
トークテーマ③|働き方改革は本当に進んでいるのか?

3つ目のトピックは、働き方改革についてです。事前アンケートで働き方改革が進んでいると答えた人は48%と約半数に上りました。
日本においては、有給休暇の取得が義務化されたほか、残業に関しても36協定で年間360時間を超えないように法律でしっかり制限されるようになったりと、制度的なテコ入れが本格的に進んでいます。
たんた氏は「ここ数年でかなり労働環境は変わってきていて、日本の職場環境もかなり改善されているのでは」と意見を述べました。
日本の働き方改革について、酒井氏は「ブラックな環境で働かされる人を守る」という意味では効果が出ているが、『もっと働きたい』と考えている人たちにまでブレーキがかかってしまっているのは課題だと思う」と持論を展開しました。
酒井氏は以前、中国のゲーム企業テンセントを訪問した際、エンジニアの作業スペースの横にハンモックが20個くらい設置され、仮眠を取りながら働くスタイルだったのに驚いたと言います。
社内に食事設備も完備され、社員は朝から晩まで仕事に集中でき、土日も働ける文化が根付いているからこそ、それが中国の急成長の原動力になっているのを実感したそうです。
トークテーマ④|多様性の中での働き方の選択肢
最後は働き方の多様性についてのトピックになります。
事前のアンケートでは、今の就業形態に満足していると答えた人は39%、どちらとも言えないと答えた人が33%でした。
今のAI時代においては、将来的にはAIが進化して人間が働かなくてもいいような社会が到来する可能性もあるなかで、「どんな仕事をしているかによって収入や生活の格差が広がるタイミングがある」と酒井氏は述べました。
「これから仕事を選ぶ際には、AIに置き換えられにくい職種かどうかという視点を持つことが重要です。『エンジニアもAIで不要になるのでは』という声もありますが、現時点ではむしろ逆で、AIを開発したり運用・保守したりしているのはエンジニア自身です。なので、今エンジニアをしている人やこれから目指す人にとっては、まだまだ有望な分野だと思っています」
また、働き方の選択については「給料の高い仕事を選ぶ」こと、「やりがいのある仕事を選ぶ」ことの2つの考え方があると酒井氏。日本ではやりがいや自分の好きなことを重視する傾向がありますが、アメリカや中国、インドなどでは収入が高い仕事をやるという割り切った選択をする人が多いとのことです。
やりがいを大事にしてもいいし、収入を重視してもいい。
大切なのは、自分の人生観や価値観に合わせて意識的に選択すること。
収入を軸にするのも一つの考え方ですし、やりがいを軸に選ぶのも立派な選択だと酒井氏は説明しました。

たんた氏は、実際にエンジニアとして働いてみたことで、「開発そのものが好きだということに気づけたのが大きかった」と意見を述べました。
「リスクとリターンのバランスを考えた時に、自分にとってはフリーランスエンジニアという働き方がちょうどいいと感じました。リスク許容度は頭で考えるよりも、実際にその場に立ってみないとわからないと思うんですよ。
なので、少しでも興味のあることがあるなら、まずはチャレンジしてみる。そうした好奇心や興味に素直に従うことで、自分が心地よく感じられる働き方に出会えるのではないでしょうか」
セイト氏は「開発の経験は大きな財産になることから、エンジニアは開発の仕事自体が嫌いじゃなければ、続けるのがすごく良い選択肢だと思う」としつつ、働き方に正解はないからこそ、「自分が何を選ぶか」を軸にキャリアを作っていくことが大切だと述べ、セッションを締めくくりました。
成長意欲の高いエンジニアを支援したい。PE-BANKが提供する「学び」と「活躍」の場
PE-BANKが主催するITエンジニア向けオンラインイベント「ProTechOne」にかける思いや今後の展開について、同社 代表取締役社長の髙田 幹也氏に話を聞きました。
── ProTechOneはどのような背景から始まったイベントだったのでしょうか?

元々は、当社に所属するフリーランスエンジニアたちが自発的に始めた「文化祭」のような発表会だったんです。第一回目は2007年に遡るのですが、その時は本社の会議室に集まって、みんなで飲食物のブースを出したり、興味関心のある技術テーマのLT(ライトニングトーク)を行ったりしていました。
そんなイベントを続けていくうちに、もっと色々な方にも聞いてもらいたいと思うようになり、イベントスペースを借りて本格的に運営するようになったんですね。
また、うちに所属しているエンジニアだけが発表しても集客につながらないので、著名人の基調公演を入れて、その後にフリーランスエンジニアが自分の研究テーマを発表する場を作っていきました。
現在はPE-BANKのユーザー向けではなく、外部の方でも参加できるイベントにしていますが、これはコロナ禍に突入して、どういう形式でイベントを継続しようかと考えた際に、テレワークも当たり前だったことから、完全オンライン配信に振り切ろうと思ったのがきっかけになっています。
── これからProTechOneをどのようなイベントにしていきたいですか?
成長意欲の高いエンジニアは自ら情報をキャッチしにいく姿勢を持っています。当社に所属するフリーランスエンジニアも、時代やトレンドの移り変わりが激しいなかで、もっと技術を高めてほしいですし、我々としても新しい情報を発信していくことで、「一緒に成長していける」と少しでも感じてもらえたらという思いを大切にしたいですね。
今後はPE-BANKに所属するフリーランスエンジニアから、「ProTechOneで登壇したい」と願い出てくれるようになったら嬉しいなと思います。
ProTechOneは技術だけのイベントではなく、いろんなテーマを軸にしたコンテンツを配信しているので、会社の所属や肩書きがないフリーランスでも「自分の思いを世の中に出すチャンスがある」と考えています。
─ PE-BANKとして今後の事業展望を教えてください。

PE-BANKとしての事業は、透明性の高い共同受注の仕組みで「中抜き」をなくし、フリーランスエンジニアが技術に専念できる環境を提供することを目指しています。
もちろん、フリーランスエンジニアのエージェントをしているので、SESが事業の大半を占めるんですけど、市況としてはエージェントがレッドオーシャン化していることから、少しでもSESから脱却していきたいと考えています。
例えば、共同受注だからこそできる開発チームの提案をしたりと、クライアントと受発注の関係ではなく一緒に伴走していけるようなスタイルを模索していきたいですね。
そのほか、「Pe-BANKカレッジ」などの新規事業も複数立ち上げており、基本的には全てフリーランスの方々が関わりながらビジネスが成長できるのを軸に、会社をさらに成長させていけるように尽力したいと考えています。